背中で語る

 友人へのアドバイスってどうやったら良いと思う。尋ねると彼は一瞬考えるような顔をしたあと、難しいことを聞くねと言った。そう、難しいから聞いてるんだよ。何かあったのと逆に彼が聞いた、突然出てきた話題にしては背景がありそうな話だったよ。本当は初めからその話をしたかったのだ、最初の質問など導入に過ぎない、面倒なワンステップを一々踏んでいるな、と思った。そうそう、ちょっと聞いてくれよ。  話はそんなに複雑ではない。もうすぐ結婚をする友人がいる、来年頭から同居と共に籍を入れる。結婚式はその半年後くらいを予定している。結婚には、引っ越し・結婚式とお金がかかるイベントがある。そのために貯金がしたい。でも、本当にお金が貯められるか少し不安だ。じゃあ悩むならちょっと考えてみようかと、私は話を聞きながら彼の状況を整理していった。いつまでにいくら必要なのかを整理し、そのためには貯金がいくら必要なのか、今の月々の収入と予想される支出も話しながら計算した。その中で揉めたのは予想される月の支出の内訳だ。彼は月の食費は二人で4万円くらいと見積もっていた。私はとても甘い見積もりだと思った。今毎日いくらくらい使っているの?と聞くと、昼も夜も600円くらいだと言う。一日1200円、一ヶ月で3万6千円、しかもこれは一人分だ。二人なら倍は見たほうが良い、たまに良いものを食べてしまうことも考えると月8万円くらいいくのではないか。うーん、でも食費に月8万は使いすぎじゃないかな、そうこれからは自炊もするしもっと抑えられるはずだ、と友人は主張した。今まで自炊をしたことが無いものが突然自炊を始めても続かない、人間はいきなり環境を変えられる程柔軟な人間ではない。一旦食費は8万ほどにしておいて、他の出費を少しずつ抑えた方が良いと念を押した。いや、でも…。では、納得行かないなら、もっと具体的に説明しようか……。  そして、ついに友達は怒っちゃったんだね、あんまりムリムリ言われるとムカつくんだよ、って。彼はくすくすと笑った。笑いごとじゃないんだけどなぁ。そう、怒られた、しかも結構激昂して。私は何故怒ったのか分からず、びっくりした。いや分からずというのは正確ではない、ちょっと痛いところをついているという自覚はあって、不快な話題だったことは分かる。しかし、怒ることでは無いだろう、その不快さを飲み込んで建設的に話を勧めていく場だったのではないだろうか。  ここまで話すと。まぁ君の言うことは筋が通っていると思うよ、と彼は言った。彼は続ける、でも正しくはないよ。君は筋が通っていることが正しいと思っているみたいだけど、筋が通っていることは行儀が悪いんだよ。君は友人の生活に対して、あまりにも踏み込みすぎているだって君がいくら計算をして、月々いくらかかるって計算したところでその生活をするのは君じゃなくて友人なんだぜ。確かに今後も自炊なんかきっとできないだろう、でもあの瞬間友人はきっとそういう生活をする自分を夢見ていたんだ。その夢を壊す権利は君には無いよ。  因みに、こう言われて君はどう思った。うん、まぁ確かに、とは思ったよ。君は結構理性が強いからそうやって受け止めているけど、本当はもっと不快感を露わにして良いんだぜ、何故ならこれはとても行儀の悪いアドバイスなんだから。そう言って彼はまた笑った。  アドバイスってのはどうしても行儀悪くなっちゃうんだね。まぁそうだね、だからアドバイスなんて本来必要ないんだよ、人間皆自分が正しいと思っていて、アドバイスなんて自分の正しさを保証してほしいんだから。だからアドバイスなんて、相手の話を聞いて、それでイイんじゃないと適当に相槌を打っていれば良いんだよ。そして、自分は自分で正しいと思うやり方をするのが良い、背中で語れってやつだね。