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ニッカウヰスキー

「お誕生日おめでとう、これあげるよ」
彼はそう言って緑色の袋を私に手渡した。袋は口の部分はシールで閉じられており、真ん中にはバラの絵が書いてある。私は可愛い袋だなと思った。
「開けてもいいの?」
「良いけど、その前に聞かせてよ。プレゼントを他のもう一つ悩んだんだ。Amazonギフトカードにしようかとも思ったんだ。どっちが良かった?」
ちょっと考えてから、答える。
「それは、中を見ないとわからないかな」
「あぁ、具体的な物という視点で考えないでほしい。聞きたいのは、抽象的な物と、具体的な物体どっちが良いとかという観念的な質問をしたかっただけなんだ」
プレゼントを渡して、そのプレゼントについての感想を聞かないことに、私はちょっと笑ってしまう。


「そうだね、それなら僕は抽象的な物のほうが良いかな。例えば、本は実際の本より電子書籍の方が好きだし。ただ物体としてしか渡せない物っていうのはこの世にあるから、それを考えると難しいね」
「なるほど、そういうことなら、それは物体としてしか渡せないから、意味はあったかもね」

閉じられたシールの部分を切り、袋を開く。中には瓶が一本入っていた。瓶には茶色い液体が入っており、ラベルには「竹鶴」と書いてあった。ウィスキーだった。確かにこれは物体としてしか渡せない。
「ウィスキーあんまり飲まないって言ってたでしょ。僕は最近ウィスキー好きなんだよね、だから飲んで感想を聞こうと思って、それにしてみた」
私はクルクルと瓶を回しながらラベルを眺める。製造者はニッカウヰスキー

 

「ありがとう。こういう、渡す側の意思しか無いプレゼントって僕は好きだな。プレゼントって、相手のことを考えて渡すものという価値観があるじゃないか。あれは渡す時に難しいのは勿論、受け取る時も、受け取りにくくって苦手なんだよね。そういう苦手な態度を相手に見せてしまうことは悪いという感情も同時にある。だからこそ、余計に気を使ってしまって、いつしかプレゼントのやり取り自体苦手になったな」
だから、こういう独善的な渡す側が自分のことだけを考えているプレゼントは好きだ。それは、多分、疲れないから。

 

私がそう答えると、彼はまぁ君はそうかもねと言った。そして、その気持は分かるよ、と。だけどね。
「相手のことを考えてプレゼントを渡すとは、どういうことかと言うと、自分の中に受け取る側の性格をモデリングして、これを渡したらどんな反応するかな、とこれならどうかな、と何度も何度もシミュレーションすることだと、僕は思うんだ。そして、普通、人はそうやって他人の中に自分のモデルがあることを、好ましく思うんだ。だから、プレゼントにもそのモデルの存在を感じたがる。気持ちのこもったプレゼントっていうのはきっとそういうことだ。物に思いが入るんじゃない、相手の中に自分を見出すことなんだよ。それを嫌がるのは、重荷を感じるから?それとも、勝手に自分を決めつけられるのが嫌だから?」


彼は私の手の中にある茶色い瓶を掴むと、手の中で弄ぶ。
「ウィスキーは美味しいよ。水で割ってもいいし、ロックでも良いし、ストレートでもいい。何でもいいから、好きな飲み方を見つけてみたら」
茶色い液体はチャプチャプと波打つ。ウィスキーとは一体どんな味なんだろうか。