仕事をするようになってきた

職場の休憩室でコーヒーを飲んでいると、同僚に声をかけられた。

 

「最近仕事をするようになってきたね」

 

彼はヘラヘラと笑っていた。その表情に悪意は感じず、揶揄する意図もなさそうだったので、素直に聞くことにした。

 

「どういう意味ですか?」

 

彼はおかしそうにクスクスと笑った。

 

「さっき、結構面倒なバグにぶちあたってたじゃない。そんときに、『まぁ適当でいいから、それっぽい感じでやろうよ』って言ってたじゃん。それを見て、仕事してるなぁ、と思って」

 

「それって仕事してるんですかね。言った自分が言うのも何ですけど、適当に何とかやり過ごそうとしただけですよ」

 

「でも、今まで全然そういう風にできなかったじゃん。何かすごく正しい状態に至ろうとしてたじゃん。でも、俺が思うにそういうのは仕事じゃなくて、ただの自己実現だからさ。そういうものをあんまり持ち込まなくなったな、って。だから、ちゃんと仕事してるなぁって。」

 

「うーん、それって良いことなんですかね」

 

「正論を言って、物事を進めないより俺は全然いいと思うな。そういえばこの前30歳だっけ。君もおじさんになったってことかね」

 

僕は眉根を寄せ、不満そうな顔をするしかなかった。