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黒くなっていく

携帯を見ると、LINE通知が溜まっていた。緑色のアイコンはすべて同じ差出人であることを示していた。彼は時折大量のLINEを送ってくる、そして僕の反応を期待しているわけじゃない。

LINEとはコミュニケーションのためのツールじゃないの?、と聞いたところ、君のLINEは僕のTwitterだからねと笑って返された。Twitterなら仕方がない。彼のタイムラインを唯一のフォロワーたる僕は眺める。

 

おすすめされていた漫画、読んだよ、フラジャイル。とても面白かった、そして絶妙に凹む。有能な頭脳と旺盛なモチベーションが欲しいと思ったな。

仕事って、とても難しい。仕事には決められた手順というのがある、そして往々にして決められた経緯は不明瞭だ。
だから本来正しい手順でやるべきだけど、手順を前後することのメリットは分からない。かといって、正しい手順でやるデメリットも存在しない、強いて言えばただただ面倒くさい、それだけの理由。だから、つい手抜いてしまう。

そういう風に仕事をしていたら、半年後に想定外の事態から、手順を前後したデメリットが発露する。

恐ろしいのは、周囲はこのトラブルの原因が、僕が手抜いたことにあるということが分からない。何故なら誰も正しい手順で行っていないし、正しい手順自体を知らないから。

でも、自分だけは分かる、これが発生したのは自分がやるべきことをやらなかったから、でも声をあげなくても誰も気づかない、言葉を飲み込み、自分だけが凹む。

分厚いガイド的なものを何冊も読んだり、休日をある程度返上して現場を廻ったりすれば潰せるミスだな、と自分は理解している。でも、やらない、有能な頭脳も旺盛なモチベーションが無いから。分かってて時間外の仕事をしていないから、そして、これは俺のせいだというミスを見つける。凹む。

僕の仕事は命はそんなにかかわらないけど、多かれ少なかれ仕事をしている人は感じそうなところを抉ってくる、良い漫画だなと思った。

 


彼のTwitterはいつもとても面白い。不真面目な体に、理想の心が住んでいて、そのギャップに苦しんでいる。彼は大学に通わずに3年間留年をした、その間何をしていたの?と聞いたら「大学に行かないことで感じるストレスと日々戦っていたんだ」と言った。私は彼には真面目に行動を起こせる体か、理想を直視しない不真面目な心のどちらかを与えてやるべきだったな、と思った。
私は彼に返答を打つ、”感性の幅が広がった、という意味で労働も悪くないね”。すぐに既読マークが付き、私は反応を待つ。


広がるのではなく失っているのだと言った作家がいたよ。色を加えすぎて、どんな人も最後には人生を真っ黒にしてしまうから、その色が万人共通の真実に見えてしまう。

様々な体験によって人が賢くなり心理に近づけるなんて錯覚だ。それはただの黒い色に過ぎない。


私たちは労働で消耗し、少しずつ自分の色を失い、ただただ黒に近づいているのだろうか。そうかもしれない。
私は彼に返答を打つ、”それでも”、と。

”それでも、その更に黒に近づいた色は僕たちには未達の領域なんだから、それはそれで、新しい世界だよ”

既読が付く。返答が来る。

 

まぁそうだね、僕もどちらかと言うと、そう思う。昔より人生は、楽しい。