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バカの戦略と、無能のハッタリ。

お兄ちゃん、久しぶり、誕生日おめでとう、元気だった?風邪ひいたんだって、修行僧じゃないんだからご飯ちゃんと食べたほうが良いよ、お母さんも心配するし。え、私?私は、今司法修習生やってるよ、弁護士先生の付き添いみたいな、仕事体験とも言うかも。まぁ色々悩みとかあるけど、人生そんなもんだよね。そうだね、ついでだから聞いてみるけど、教養ってどうやったら身につくと思う?

――教養?

そう、教養。例えば、歴史に関する一般的な知識だったり、漢字の読み書きだったり、ただの雑学だったり色々あるけど、そういう奴。知らなくても死なないけど、たまに絶望的に会話がかみ合わなかったり、話が弾まないことがある、アレだよ。今の指導弁護士と話が噛み合わなくて、バカだと思われているみたいなんだよね。まぁ実際バカなのは事実だからさ。

――司法試験に受かってまでバカってことは普通無いと思うけど。

いや、やっぱりバカだったと思うよ。小学校のとき学年は違うけど、お兄ちゃんと同じ塾に通ったこと覚えてる?お兄ちゃんは何もしなくても、一番上のクラスでトップクラスだったけど、私は入塾テストすら補欠合格だったからね。入塾テストなんて、普通受かるじゃない、そもそも落とすための試験ですら無いし、そこにギリギリって、なかなかのもんだと思うよ。 それでも司法試験に受かったのは、私がバカを極めたからだと思ってるよ。バカの道を極めるのって結構大変だよ。自分に一切の妥協を許さないし、プライドなんて折られてなんぼだからね。

弁護士になろうと思ってから、目標を立てて、毎日の勉強のスケジュールを立てて、そして何度も失敗してを繰り返していたから。あとは、他人に可愛がられることに本気を出したってのもあるね。私は、勉強のやり方なんてわからないからさ、頭いい人にニコニコしながら、教えてくださ~い、って、笑いながらお腹を見せて撫でてもらうの。 私って結構可愛いから、そんな子がニコニコしながら教えを請いて、そして真面目にこなしてるなんて皆教えたくなるよね。そうやって、私は色々な巨人の肩に乗せて貰いながら、ここまで来たんだよ。

でもさ、私って全てのリソースを司法試験に注ぎ込んだから、それ以外の知識がぽっこり抜け落ちているんだよね。お兄ちゃんとか適当に生きて、適当に勉強して、一杯遊んでいてもそこそこやれるから、いいじゃん。余ったリソースで、無駄なこととか、どうでもいいこととか色々覚えているじゃない、私、そういうの無いんだよね。

でも、自分はずっとそれでも良いと思ってたんだ。分からないことは教えてくださ~いって言って、巨人の肩に乗せて貰っていけば良いって。バカって個性なんだって。でも、どうやらもう通用しないみたいなんだよね。

今のところも、そういう姿勢でいたら、指導の弁護士先生に言われたんだ。「あなたは、もう先生と呼ばれる立場なんですよ」って。 それを言われてハッとしたんだ。担当のお客さんに対して、私は今、教える立場なんだって。求められているのは、お腹を向けてくる可愛らしいバカじゃなくて、優秀で頼りがいのある先生だったんだって。 そんなことって、人生で一度も無かったから、大変なんだ。お客さんと話していて、「えっ、それって何ですか?」って聞いたときの「え、こんなことも知らないの?」って顔、忘れられないよ。

だからね、お客さんにそういう顔をされないように、今まで備えなかった教養ってものを身に着けたいな、って思ってるんだよ。 教養なんて、私にはただのハッタリにしか見えないんだけど、今はそれを求められてるんだから頑張るよ。お兄ちゃん、得意でしょ、そういうはったり。